君を守りたくて⑤(鷹司正臣×ジル)

03.正臣の朝の日課
ジルが鷹司家に来てから数日が経過した。
彼女は大人しい女性だった。
1度、部屋まで様子を見に行ったのだが、
静かだった。
というか、何もせず1日中ぼんやりしているらしい。
ベッドに座り込んだまま夜が過ぎたと聞いた時は流石に焦りを禁じ得なかった。
ご飯を食べてないのか!?と以前、聞いたら…
食べる習慣がない、と答えられた。
まず普通の回答は期待できないと俺は彼女が鷹司家に来て3日目で思い知らされた。
そんな彼女だから、放っておけず、
最近の俺の日課は彼女と行動することになっている。
兄にも何も食べない、何もしないのは流石に心配だと言っていたこともあり…
朝、起きて着替えを済ませた俺はジルの部屋に向かう。
使用人にちらっと聞いたが、着替える習慣がないので使用人の度肝を毎回抜いてくれる困ったお嬢さんと噂されている。
ノックをして部屋に入ると、ベッドに座り込んだままのジルがいた。
気配に気づいたのか、俺の方に視線を向けては、首を傾げただけの反応。
俺は、乾いた笑いを溢す。
「おはよう、ジル。…よく眠れたか?」
そう俺が彼女のとなりに座ると、こてんと首を傾けた。
「…正臣、おはよう。きっと眠れたと思う」
相変わらず珍回答だった。
なぜ、きっとなのか。
そっとジルの手に手のひらを重ねればピクリと反応した。
ジルは暴力を一身に受けていた為、触れられるのに慣れていない。
これから人と関わることがあるかもしれないのに、触れられる度にビクついては困ると兄は言っていたので、慣れる練習を実践中。
…怖いのかもしれないな。
彼女にとって触れられることは=暴力になっているのだろう。
だからこそ、身体がビクついてしまう。
現に何度俺が優しく触れても過敏な反応をするのだから。
「ジル、今日は、何しようか?」
「ん…なんでも、構わない」
とりあえず、朝食を取ろうと、彼女の手を取る。
少しは、俺に対して心を許してくれているのだろうか?
きゅっと俺の手を握るジルの手に力が込められていた気がした。